認知症(Dementia)とはどういう病気なのか?
なぜ「よくならない」といわれているのか?
以下は下記の書籍の内容を引用し、まとめたものだ。
著者は、「DCP-LA」という新薬の開発途上で、その中の有効成分を活用し、すでに500人に及ぶ認知症患者を改善・治療した実績を持つ。
認知症は治らないという「常識」を覆し、認知症患者さん家族、中高年の方々に、希望と安心を提供するために書かれたものが本書。
PO/DLホスファチジルコリンは、ヒト認知機能障害に対する改善効果があるとして、現在国内国際特許を出願中。
認知症というのは「脳神経細胞の鈍化」によるもの。
つまり脳の神経細胞の死で、働きが悪くなるため、認知機能が衰える病気だ。
認知症の典型的な症状は「物忘れ(短期記憶障害)」
だが「物忘れ」は認知症の症状のほんの一部でしかない。
「認知機能」とは、五感(視・聴・嘆・触・味)を通じて外部から入ってきた情報から、物事や自分の状況を認識する働きのことを指す。
それらを言葉で表現したり、計算、学習し、記憶などで、問題解決のために役立てるため、知性の働きを総称した概念ともいえるのだ。
たとえば、花が咲いているのを見たり、匂いをかいだときに「花だ」とわかるのも、「認知」のなせるワザ。
私たちは、この世に生まれた瞬間から、声や匂い、手触りといった大量の情報を脳に記憶させ続けている。
あらゆる情報を脳に書き込み、その中から状況に合わせ、選択し、日々反応を繰り返している。
だが加齢とともに、この動きが鈍り、ムーズにゆかなくなることがある。
これが認知症や、物が覚えられなくなる原因となるのだ。
認知症は大きく二つのタイプに分類される。
一つは、異常なタンパク質(ゴミ)が脳の中に溜まって引き起こされる神経変性疾患の認知症。
このタイプには、アルツハイマー型認知症がある。
もう一つは、脳血管障害によって引き起こされる血管性認知症。
認知症の五割以上はアルツハイマー型だが、アルツハイマー病は認知症を引き起こす原因疾患の一つに過ぎない。
アルツハイマー病は、海馬を含めて大脳(前頭葉・側頭葉)が萎縮(脳神経細胞死)し、驚くべきスピードでその萎縮が進行してゆく。
昔の記憶はあるが、新しいことがまったく覚えられない、今言ったこと、今おこったことを瞬時に忘れてしまうというのが特徴だ。
だがアルツハイマー病の真の原因はいまだに不明なのだ。
ヒトの脳には、数百億個の神経細胞があり、複雑な神経団路を形成している。
そのネットワークの要となる構造が、シナプスと呼ばれる「神経細胞と神経細胞のつなぎ目」というわけだ。
このシナプスの活動(働き)が脳の機能を反映する働きを司っている。
シナプスの役目は神経細胞間で情報を橋渡しすること。
だが誰でも年を重ねるにつれシナプスの数が減少し、それがひどくなると物忘れの原因になるわけだ。
逆に言えば、シナプスでの情報伝達の効率を上げれば、認知機能は高まるということになる。
そこで西崎医師は新薬の開発過程で、脳神経細胞を活性化させる「ホスフアチジルコリン」という物質に注目。
これは、卵黄や大豆などさまざまな食品に含まれる成分だ。
あらゆる生体内の細胞膜を構成する成分のひとつで、記憶と学習意欲を支援する働きを持っている。
この「ホスフアチジルコリン」という物質は、このシナプスの情報伝達機能を劇的に高める働きを持っている。
死んだ神経細胞を元に戻すことはできないが、生きている神経細胞を元気にすることは可能だ。
手や足の皮膚を切っても、細胞が再生し、皮膚はくっつき、治るわけだ。
ところが、脳神経細胞は他の細胞と異なり再生しないのだ。
つまり、一度傷ついたり死滅した脳神経細胞は、決して元には戻らない。
脳神経細胞の数は生まれたときに決まっている。
加齢とともにどんどん減り、数の低下(脳神経細胞死)にともなって認知機能は低下してゆく。
脳神経細胞が死んでゆくスピードは人によって異なるが、スピードが速い人は認知症になりやすいといえるだろう。
さらに、脳内出血や脳梗塞などが起こると、その部分の脳神経細胞は死に絶え、認知症になる確率がより高くなるのだ。
このように一度死んだ脳神経細胞は生き返らないため、「認知症は治らない」という定説となっている理由となっているわけだ。
一度死んだ脳神経細胞は生き返らないのに、どうやって認知症を改善させるのか?
答えはきわめてシンプル。
生き残っている脳神経細胞が、死んだものの分まで働くようになればいいわけだ。
つまり「認知症の改善とは、衰えた認知機能を改善すること」に他ならない。
ホスファチジルコリンは、もともと私たちの体の中や、動植物の中にある物質。
そして細胞膜を作る成分の一つでもあり、コリンという物質と飽和・不飽和脂肪酸が組み合わさり構成されている。
コリンは細胞膜を作ったり修復したりするのに欠かせない栄養素の一つ。
卵黄、大豆などに含まれる。
脂肪酸は脂質の一つで、飽和脂肪酸も不飽和脂肪酸もエネルギー源や細胞膜の材料となる。
また、不飽和脂肪酸には、血中の中性脂肪やコレステロールの量の調節を助ける働きも持っている。
アラキドン酸、オレイン酸、リノ1ル酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが代表的な不飽和脂肪酸だ。
つまり、「ホスファチジルコリンは私たちにとって必須の物質」ともいえるわけだ。
しかし、それだけで西崎医師が、ホスフアチジルコリンに着目した理由ではないのだという。
不飽和脂肪酸は神経伝達物質の放出を刺激し、老化した細胞を若返らせる働きを持っている。
さらに不飽和脂肪酸には、受容体の反応を増大させる働きがある。
さらに言えば、コリンは神経伝達物質の一つであるアセチルコリンの材料にもなるのだ。
シナプス伝達を促進させる方法は、次のようなものが考えられるという。
1・シナプス前終末からの神経伝達物質の放出を増加させる。
2・神経腰細胞(神経細胞のまわりにあり、神経細胞を支えるさまざまな働きをする)からの神経伝達物質の放出を増加させる。
3・神経腰細胞・シナプス前終末への神経伝達物質取り込みを防ぎ、シナプス間隙における神経伝達36物質の濃度を高める。
4・神経伝達物質の分解を防ぎ、シナプス間隙における神経伝達物質の濃度を維持する。
5・個々の神経伝達物質受容体反応を増大させる。
6・神経伝達物質受容体の数を増やす。
ホスファチジルコリンは、神経伝達物質の放出を促す(上記方法の1に相当)
受容体の反応を増大させる(2に相当)
アセチルコリンの量を増やす(1に相当)
という三つの性質を持っている。
つまりホスフアチジルコリンを脳神経細砲にたくさん届けることができれば、シナプス伝達を促進させることができるというわけだ。
ちなみに、アルツハイマー型認知症の進行を抑える薬であるアリセプトは、神経伝達物質のひとつであるアセチルコリンの分解を防ぐ働きを持っている。
つまりシナプス間隙におけるアセチルコリンの濃度を維持する薬剤なのだ。
つまり、(4)の方法をとることでアセチルコリンの量を間接的に増やし、シナプス伝達を活発にさせようとする薬だ。
だが残念ながら、アリセプトにはアセチルコリンの量を増やす作用しかなく、他の神経伝達物質の量を増やすことはできない。
そのため根本的な治療薬には、なりえないのだという。
続く・・