映画の始まりから、観る者は物語の展開が掴めないまま、ロンドンでの爆破未遂へと繋がってゆく。
ロンドンの地下鉄に乗るコレット(アンドレア・ライズブロー) Andrea Louise Riseborough を、何の説明もなく、カメラは淡々と写し続ける。
このあたりで観客はすでに、この映画の虜になってしまう。
実に恐るべき脚本だ。
家族すべてがIRAのメンバーという役柄のコレット(アンドレア・ライズブロー)の魅力で魅せる映画といっていいだろう。
爆破未遂で逮捕されたコレットは、MI5(イギリス情報局保安部)の捜査官・マック(クライヴ・オーウェン)にある選択を迫られる。
意外にも直接的な暴力シーンはほとんどない。
そのかわり、武器や兵器を使わない狡猾な心理戦術を通し、泥沼の紛争を垣間見せてくれる。
英国独特の重苦しい風景描写を背景に、肉親の情に訴え、切り崩してゆく心理戦は、見応え十分。
いつ、味方にバレるのか?
それとも・・
誰が味方で誰が敵なのかがわらない不安が混沌とした状態を生み出し、それが観客のココロを鷲づかみにするわけだ。
そのため、全編を通しスリリングな心理描写を、存分に楽しむことができる作りとなっている。
この映画は、いわゆる「説明」の部分というのは、極端に少なく、日本映画とは「まさに対極にある」作りだと言っていいだろう。
IRAの大義や、英国の思惑などといったゴタクのなさというか、「潔さ」は全編に渡って貫かれている。
それがまた、この映画の大きな魅力となっているわけだ。
登場人物は、まさに行動あるのみ。
そのため、とても「わかりづらい」と感じるかも知れない。
いわゆる観客に対して、理解を助けようなどという、媚びや余計なお節介の一切ない映画だ。
そのかわり、この映画では、驚愕のラストが待ち受けている。
見終わった後、こうした紛争が根源的に持っている悲劇を、誰もが強烈なインパクトでもって感じることになる。
見終わったあと、もう一度最初からじっくりと見たくなってしまう作品だ。
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