水野:
報道するラジオ、今日の特集テーマは「メディアが伝えていない福島第一原発事故3年」です。
今度は京都大学原子炉実験所助教小出裕章さんに伺います。
小出さんに質問が早速リスナーの方からきておりまして、
「安倍総理は7年後の東京オリンピックが開催されるころまでには、原発による放射能汚染について問題なく解決しているんだという様な意味の事をおっしゃられているように聞きました」というふうにおっしゃられているんです。
「本当に大丈夫なんでしょうか?今放射能の心配はしなくていいのでしょうか?」
と、いうご質問なんですけれども、
小出さん、今、もう3年経とうとしているんですが、
放射能は出ているんですか?
小出:
はい、もちろん出ています。
原子炉が壊れてしまっている訳で、
格納容器という放射能を閉じ込めるための最後の防壁も、多分あちこちで穴が開いてしまっていまして、
水を入れてもみんな漏れてきてしまうという状態ですので、
今でも放射性物質は大気中、あるいは汚染水としてあちこちに漏れています。
水野:今も出続けていると。
小出:そうです。
どの位の量ですか?
水野:
で、これまでに福島第一原発事故で放出されたセシウムの量というのは、
今までの物と合わせるとどれぐらいになるんでしょう?
小出:
はい。えー、どこまで正確化はよく分からないのですが、
日本国政府がIAEA国際原子力機関という原子力を推進する団体に提出した報告書があります。
それによりますと、1.5×10の16乗ベクレルという数字が書かれていまして、
それは広島原爆がまき散らしたセシウム137に比較すると、168発分に相当しています。
水野:広島に落とされた原爆の168発分のセシウムがもうすでに、
小出:大気中だけなのですけれども、
水野:あ、これはじゃあ、「海に流れているものとは別で」ですか?
小出:
全く別です。
そして私はこの168発というのも、多分過小評価だと思っています。
なぜなら日本国政府というのは、「福島第一原子力発電所が安全だ」といってお墨付きを与えた張本人です。
で、重大な責任があるわけですし、
私は「責任」という言葉では甘過ぎると思っていて「犯罪」だと思っています。
犯罪者が自分の罪を正確に申告する道理はないのであって、
なるべく自分の罪を小さく見せようとしてはじき出した数字がこの168発分という数字です。
多分それの2倍とか3倍が大気中に既に出たと思いますし、
それとあまり違わない程のものが多分、汚染水として海に向かって流れていると思います。
水野:
あ、そうですか。はぁ~!
大気に出されたものと同じくらいの量のセシウムが海にも流れだしていく事になるであろうと。
小出:
敷地の中にもうそれぐらいは流れているはずで、
敷地というのは土がある訳ですから、
すぐにジャージャーと海へ流れていく訳ではありませんけれども、
多分敷地の中は今も、大気中に出たのと同じくらいのセシウムがあちこちに汚染水として浸みこんでいると思います。
水野:
そうしますと、今の小出さんのお話を荒っぽく計算したら、
広島に落とされた原爆の300発以上分のセシウムが、
様々なところ、地球に移されてしまうと、そういう事になりますよね。
小出:そうです。
放射性物質はどの地域にどの位?
水野:はぁ・・・・
あのそして、皆さん本当に気にしていらっしゃる、
放射性物質はどの地域にどの位の量であるのか?っていうところですね。
小出:
はい。
皆さんご承知だと思いますけれども、
日本というこの国は「北半球温帯」というところにあります。
そこでは「偏西風」という大変強い西風が吹いているのです。
そして福島第一原子力発電所というのは、福島県の太平洋に面しているところに建っていた訳で、
福島第一原子力発電所から放出された放射性物質、セシウムも含めてですけれども、
殆どのものは偏西風に乗って太平洋に向かって流れていきました。
そのため多分、放出された放射能の8割から9割は太平洋に向かって流れて、
北アメリカ大陸の西海岸をかなり汚染しています。
そして残りの1割から2割が、場合によっては東風の日もあったし、南風、北風という日もあって、
福島県を中心とした東北地方、関東地方に降り注いだという事だと私は思います。
水野:東北地方に、関東地方も加わっているんですか
小出:そうです。
水野:具体的にはどの程度の汚染がどういった県でみられているんでしょうか?
小出:
数字でちょっと話させていただきたいのですが、
1平方mあたり60万ベクレルを超えてセシウムが降り積もったという地域が、
およそ1000平方kmあります。
関西のみなさんは琵琶湖はご存じだと思います。
大変大きな湖というか、海のように見える湖ですけれども、
琵琶湖が1.5個入ってしまうというぐらいの広大なところです、1000平方km。
そこが1平方mあたり60万ベクレルを超えて汚染されまして、
今現在10万人を超える人々が追い出されてしまったという地域です。
そしてその周辺にももちろん、汚染の程度が低くなっているところがずーーーっと繋がっている訳です。
そして、私は京都大学原子炉実験所というところで、放射能を相手に仕事をして給料をもらっています。
そしてそういう人間に限って入っていいいという場所を「放射線管理区域」と呼びます。
普通のみなさんは入れないんですけれども、
その「放射線管理区域から外に持ち出すことのできる汚染の程度」というのは、
1平方mあたり4万ベクレルなのです。
「それ以上汚れているようなものはどんな物でも放射腺管理区域の外側に存在してはいけない」というのが、
これまでの法律でした。
もし、1平方mあたり4万ベクレルを超えている地域というものの面積を求めていくとすると、
たぶん、1万4000平方kmだと思います。
水野:どれぐらいの広さっていうことですか?
小出:
日本が38万平方km。
本州だけで24万平方km位だったと思いますので、
本州の数%、5%は超えているというぐらいのものだと思います。
水野:ふ~~~ん・・・
平野:
これ、先生のご本の原発ゼロというデータによると、
東京都心の葛飾区でも4万ベクレル/平方km、こういう数字が出ていますよね。
という事は、「東京の中でも放射線管理区域があった」ということですね。
小出:そうです。
水野:今もあるんですか?
小出:
はい、今もあります。
私のデータではなくて、それは日本国政府のデータなんですが、
東京の下町、葛飾区あるいは江戸川区の一部というところは、
放射線の管理区域にしなければならないほどの汚染を受けています。
平野:なにもやっていないですよね?現実的には。
小出:
はい。
もう、日本国政府は「どうしようもない」と。
これまでは通常時として法律があったけれども、
「今は緊急時だから、元々は放射線管理区域にしなければいけない地域にも人々は住め」
という事を言っている訳でして、
1平方kmあたり60万ベクレルを超えているような、先ほど聞いていただいたところは
さすがに人は住めないけれども、
そうでないところは人が住んでもいいし、「一度逃がした人々もそこにまた戻れ」と日本国政府が言っています。
水野:
東京都の一部も、また、千葉県や埼玉県の一部もそうした放射線管理区域のレベル。
で、今もあり続けているという状況なんですね。
小出:そうです
黒い物質
水野:
そうした地域で、黒い物質というものが見つかっていると聞きましたが、
小出さん、これはどういうものですか?
小出:
みなさんもちょっと想像していただきたいのですが、
例えば駐車場の隅っこの水たまりのあたりに、「なにか黒く干からびたものが堆積している」という様なもの。
あるいは、雨どいの下になにかコンクリートの様なものがあるとすると、
「その上に黒く干からびたものが残っている」という、そういうものです。
水野:小さい、小さい、粒子の様なものが固まっている感じですか?
小出:
要するに、泥がちょっと固まっているという、
あるいはコケがなんか干からびたという、そんな感じです。
水野:それは一体何なんですか?
小出:
私は生物学者ではないのですけれども、
神戸大学の山内さんという私の知り合いが調べてくれたところでは、
「らん藻類の死骸だ」と私は聞きました。
水野:らん藻類ってなんですか?
小出:ええ、苔の様なものだと私は思うのですけれども、
水野:藻類ですね。
小出:
そうです。
そういうもの、あるいは細かい土が雨で集まったとか、そういうものの集合体だと思います。
水野:は。それで、それを小出さんが検査なさったんですね。
小出:
私もやりましたし、山内さんもやっているし、
沢山の人が検査をしてくれています。
水野:なにが検出されたんでしょう?
小出:
えー、今問題になるのはセシウム134とセシウム137の2種類の放射性物質です。
・・・・猛烈な濃度、でした。
水野:猛烈な濃度!
小出:
はい。
たとえば1kgあたり1万ベクレルという濃度を超えているようなセシウムは、
放射性物質として厳重に管理をしなければいけないのですが、
たとえば福島県内の南相馬、あるいは飯舘村というようなところで集めてきた黒い物質の中には、
1kgあたり数100万ベクレルのセシウムがありましたし、
東京都の葛飾区、先ほどちょっと放射線管理区域だと私は聞いていただきましたけれども、
そういうところでも1kgあたり何10万ベクレルという、
水野:何10万ベクレル!
小出:
はい、ものがあります。
そして東京都のいわゆる下町ですね、東の端っこ、千葉県に近いところが汚れている訳ですし、
あるいは西の端っこの奥多摩も汚れているのですが、
水野:へぇ・・・・
小出:
中央部は比較的汚染が少なくて済んだのです。
その比較的汚染が少なかった東村山市というところがあるのですが、
そこの学校から集めてきた黒い物質にも1kgあたり2万ベクレルを超えるセシウムがありました。
水野:はぁ・・・
小出:
つまり、放射性物質にしなければいけないようなものが、
子どもたちが遊ぶ学校の校庭にあるという、そういう状態です。
水野:
はぁ、これ、子どもたちの傍にこういった物質があるという事は、
ずっと子どもたちは被曝し続けることになるんですか?
小出:
そうです。
たとえば、JRの平井駅という駅があってですね、その近くでも黒い物質というものがありましたけれども、
その黒い物質、地面に薄く黒く広がっている訳ですが、
そこは子どもが指でこすった跡すらがあるという、そんな状態になっていました。
水野:これは除去しなければいけないですよね。
小出:もちろんです。
平野:こういうデータを自治体とか政府の担当省は聞いても、要するに何も手を打たない訳ですか?
小出:
そうです。
例えば学校の方は、「そんな面倒なものを持ってきてくれるな」と。
むしろその・・試料を集めようとする人たちを排除するという様な学校が多いわけですし、
国の方はもちろん、知らぬ存ぜずを決めこみたいのですから、
なかなか調査もしてくれないという状態になっています。
平野:もう自衛するしかないけれども、なかなか見えないもので難しいですね。
小出:
そうです。
放射能は目に見えませんし、放射能を測るという事はなかなか難しい事でもありますので、
「自衛しろ」といっても出来ないと私は思いますし、
やはり政府、あるいは行政、自治体というところが
本腰を入れて子どもたちを守るという事をやらなければいけないと思います。
アルプスって期待できる?
水野:
では次に伺いたいのは、福島第一原発の現在行われている作業についてなんですけれども、
汚染水の問題が大変深刻です。
で、アルプスという浄化装置がありますよね。
これが上手く動いてくれればかなり良くなるなんていう話も聞くんですが、
アルプスにはどれぐらい期待していいもんでしょうか?
小出:
え・・・まず、私はあまり期待していません。
福島第一原子力発電所の敷地の中は今猛烈な被ばく環境になってしまっていまして、
そこでちゃんとした装置を組み立てるという事もなかなか難しい、のです。
みんな要するに、なんかやろうとすればみんな被ばくをしてしまうという、そういう状況ですので、
きっちりとした機械をその場所で組み立てるということがまず難しい。
水野:現場で組み立てるものなんですか?アルプスって。
小出:
そうです。
巨大な装置ですので、トラックに乗っけて持っていけるようなものではありませんので、
水野:置く訳じゃないんですね。
小出:そうです。
水野:という事は作業員の方の被ばくを伴う作業なんですね、置くだけでも。
小出:
そうです。
アルプスを作り上げるだけでも被ばくをしながらみなさんがやっている訳です。
ですから本当であれば、たとえば配管で繋がなければいけないというようなところも、
「そんな事をしている余裕がない」という事で、ホースで繋いでいたりするわけです。
そうすると、「あちこちで漏れてしまいまして、なかなかアルプスという装置自身が動かない」
という状態で今日まで来ている訳です。
そして仮に動いたところで「本当に汚染が除去できるか?」というと、
私は多分「出来ない」と思っています。
水野:どうしてでしょう?
小出:
汚染水の中に入っている放射性物質で、重要な放射性物質は3種類です。
セシウムとストロンチウムとトリチウムと呼んでいる放射性物質です。
で、汚染水の中から、セシウムはこれまでも除いてきたのです。除去してきました。
ゼオライトという粘土鉱物にくっつけて、汚染水の中から取り除こうとしてきました。
でも、セシウムがなくなった訳ではなくて、ゼオライトに猛烈にセシウムがくっついていってきたわけですね。
で、そのゼオライトを今は保管をしている訳ですけれども、
セシウムを猛烈に含んだゼオライトはたぶん数100度という温度にもうなっている。
それが保管されているという状態だと思います。
ただし汚染水の中から、セシウムはまがりなりにものぞかれた訳ですが、
まだ、ストロンチウムとトリチウムは全く除かれないまま汚染水にある訳です。
それがタンクに溜められまして、
次々とタンクが満水になってまたあふれてしまったり、あるいは漏れたりしているわけですけれども、
ある時に漏れたタンクから漏れた汚染水の中には、
「ストロンチウムという放射性物質が1リッターあたり8000万ベクレルあった」
という事が確か1年ぐらい前にあったと思います。
つい最近では、「2兆何千万ベクレル」というストロンチウムを含んだ汚染水が漏れたと報道がありました。
で、ストロンチウム90という放射性物質は
環境に放出する時には1リットル当たり30ベクレルでないといけないという、
水野:桁がいくつも違う・・・
小出:
はい、そうです。
ですから、今ある汚染水の中からストロンチウムを除去していって海に流せるような濃度にしようと思うと、
何100万分の1にしなければいけない。ということなんですが、
私自身も放射性の廃液から放射性物質を除去しようという仕事に日々従事している人間なんですが、
1000分の1にしようと思えば、多分出来ます。
で、1万分の1にしろと言われれば、「やってみよう、多分出来るだろう」と思います。
10万分の1に綺麗にしろと言われると、「う・・・・ん」と、私はやっぱり考えてしまうし、
「出来ないかもしれない」と思います。
それを「100万分の1、あるいはもっときれいにしなければいけない」という事な訳でして、
「おそらく出来ない」と思います。
そうなると、綺麗にできないままのストロンチウムを含んだ排水を海に流すという事になると思いますし、
もう一言いってしまいますと、トリチウムという放射性物質は、アルプスでは全くとれないのです。
水野:全くとれない。
小出:
他の集団を使っても、全くとれません。トリチウムに関しては。
ですから、いつか、必ず海へ流すという日が来ます。
平野:
先生、これは一部の研究者は「害があるのか分からない」という様な事を言っていますけれども、
これ「無い」という事は立証されていないですよね?
小出:必ず害はあります。
平野:あります
小出:
はい。
放射能はもちろん、どんな放射能も必ず害があるのです。
トリチウムという放射性物質は大変弱いベータ線しか出しませんので、
害の程度は小さいという事は確かだと、私は思います。
しかし先程から聞いていただいているようにトリチウムに関する限り、
人間がそれを捕まえようとしても、全く捕まえる事が出来ないのです。
水そのものになってしまうという、そういう性質の放射性物質です。
地球というのは水の惑星と言われているように、水で生きている星な訳で、
その水が汚されてしまうという事は、私はかなり深刻な問題だろうと思いますし、
トリチウムをなんとか、海へ流したりしないようにしなければいけないとは思うのですけれども、
もう、ここまで来てしまうともうどうしようもないと、私も思います。
平野:
これは、汚染水の管理がもう限界に達しているという見通しが出ていますけれども、
先生も前からおっしゃっていますが、
「やがては海に流すしかしょうがなくなるんじゃないか」という様な見方を述べられていますけれども、
これはもう、それが、限界に近付きつつあるという分析ですかね、今は。
小出:
はい。
今福島第一原子力発電所の敷地の中に約40万トン分の汚染水が存在しています。
それで東京電力はこれからもタンクを増設していって、80万トン分はなんとか入れようと言っている訳ですけれども、
でもそれにしたって、どんどん今、汚染水が増えてきていますし、
1日400トンずつ増えている訳ですから、いつか破たんする。
「結局海へ流すしかなくなる」という事は確実です。
溶け落ちた炉心はどうなっているの?
水野:小出先生、元々の溶け落ちた炉心がどうなっているのか?これはどうなんでしょう?
小出:
わかりません。
事故を起こした発電所がもし火力発電所であったとすれば、事故現場に行って調べればいいのです。
どこがどんなふうに壊れてしまった。
ここをこうやって直せるだろう、といって直していけば、
運転を再開することだってそんなに難しいものではないのですけれども、
壊れているのが原子力発電所ですので、現場に行かれない。のです。
水野:
そうですよね。
ただ東電はね、ドロドロになった一つの塊、それを取り出していくんだという計画を立てていますでしょ?
小出:そうです。
水野:小出先生はどういう見立てですか?
小出:
東京電力と国は「確かに炉心は溶けてしまった」と、
で、炉心を入れていた圧力がま、
「原子炉圧力容器という鋼鉄製の厚さが16cmもある圧力がまの底も抜けてしまった」と、
国も東京電力も言っています。
では、その後どうなったか?というと、
「放射能を閉じ込める最後の防壁である格納容器という容器の床に落ちたんだ」と、彼等は言っています。
勿論そうだと私も思いますけれども、
彼らが今想像している状態というのは、
上から落ちてきた溶けた炉心が、格納容器の床の上にまんじゅうのように堆積しているという、
そういう事を彼等は想像しているのです。
私はそんな事は決してないと思っています。
溶けて、猛烈な水をかけながらですね、それでも溶けてしまって、
蒸気がもうもうと噴き出すというようなそういうような、
言ってみれば動的環境と私が呼ぶような環境の中で、
水野:固まっていないっていうことですか?
小出:
はい。
溶け落ちたのであって、私たちがスラッジとかスラリーとか呼ぶような、
いわゆる泥水のような形で多分溶け落ちているし、
あちこちに流れたり、壁に張り付いたりしてしまっていると私は思います。
水野:あちこちに細かく分散して飛びちっているような状況、
小出:多分そうだと思います。ただし、
平野:
地中に混ざったのであれば、またそこに地下水がまた流れてきますよね、
それがまた海の方へ流れるっていうおそれがありますよね?
小出:
そうです。
ただし東京電力は、
格納容器というのは厚さが3cmの鋼鉄製なんです。
で、もし溶けた炉心がその鋼鉄に接触してしまうと簡単に格納容器の鋼鉄は穴が開いてしまうのですけれども、
「溶け落ちた炉心は格納容器の床に落ちた」
床には実はコンクリートの内張りがしてあって、
そのコンクリートが確かに溶けた炉心で破壊されていったけれども、
「70cm分しか破壊されていないで、まだ溶け落ちた炉心は格納容器の中にある」
というのが東京電力の主張なのです。
でも私はその主張を聞いた時に、「あなた達は見てきたのですか?」と聞きたくなりました。
彼等は「計算した」と言っているのですけれども、
そんな計算は全く根拠がない計算なのであって、信用できません。
場合によってはすでに、格納容器の床に張ってあったコンクリートが破壊されてしまって、
「格納容器が、すでに底が抜けている。そして溶けた炉心が地面にめり込んで行っている」
という可能性すらあると私は思っています。
水野:
小出さんが想像するような炉心の状態であれば、
それは、取り出す事ってできるんですか?
小出:
出来ないです。
東京電力と国はなんとかして溶け落ちた炉心を掴み出そうという事をロードマップに書いているのですけれども、
その作業をしようと思うと、大変な被ばく作業になるはずだと私は思います。
で、たとえば100溶けた炉心のうちの、大変な被ばくをしながら50を取り出したとしても、
50が残ってしまうのならば、やはり私はもう同じ事だと思います。
大変な被ばくをするぐらいであるなら、もう取り出す事を全て諦めて、
水野:諦めて、
小出:
はい。
その場で封じ込めるのがいいのではないかと私は思っています。
水野:封じ込めるというのは、いわゆるチェルノブイリの様な、覆ってしまう。
小出:石棺です。
水野:石棺。棺(ひつぎ)って書くんですね、石の棺。
小出:
そうです、おっしゃって下さった通り、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故の場合には、
「もう炉心を取り出すことは諦める」という事にしまして、
石の棺、石棺というもので封じ込めるという事をやったわけです。
ただ、事故から28年経ちまして、チェルノブイリの石棺はすでにボロボロです。
そのために今、始め作った石棺をまた丸ごとさらに大きな石棺で封じ込めようという計画が進んでいまして、
第二石棺というのを現在作っています。
ですから福島の場合も、多分私は石棺を作ることになると思います。
その石棺が何年後に出来るのかわかりませんが、
私は多分死んでいるんじゃないかと、私自身は多分もう死んでいて見る事が出来ないかもしれないと思っています。
ただし、仮に私が生きている間にその石棺が出来たとしても、
30年、40年経てば、またその石棺がボロボロになっていってしまって、
新たな石棺を作らなければならなくなるはずだと思います。
多分その時には、私は確実に生きていません。
水野:・・・・・、はい、ありがとうございました。
東日本大震災、そして福島第一原子力発電所のメルトダウン事故から3年が経とうとしている。被災地の復興においても日本が抱える様々な病理や課題が次々と露わになっているが、とりわけ原発事故については、事故原因の結論も得られていないし、事故現場の収束さえままならぬ状態であるにもかかわらず、もっぱら原発再稼働の是非に政権の関心が集まるという異常な状態にある。
福島原発事故独立検証委員会、いわゆる民間事故調のプログラムディレクターとして事故原因の調査に取り組んできた元朝日新聞主筆でジャーナリストの船橋洋一氏は、あの原発事故を太平洋戦争の敗戦に続く「第二の敗戦」と捉え、その原因や再発防止により真剣に取り組む必要があると主張する。
あの事故は津波によって原発がすべての電源を失ったために、原子炉を冷やすことができなくなり、メルトダウン、メルトスルーに至ったと説明されている。原因がもっぱら津波だったかどうかについては議論があるところだが、いずれにしても万が一の時に原子炉を冷やせるより強固な設備を完備しておけば、今回のような事故は起こらないという前提に立ち、新たな安全基準などが作られている。
確かにハード面での不備は修正されなければならない。しかし、本当にそれだけでいいのだろうか。今回の事故がここまで甚大な被害をもたらすに至った背景には、単に電源のバックアップに不備があったということではないのではないか。
実際、全電源喪失に至った後に福島第一発電所や東電本社、そして首相官邸などで起きたことをつぶさに再検証してみると、事故がここまで大きくなった原因は単に電源というハードウエアの問題だけではなく、現場と事故の対応に当たる政府関係者や東電関係者の間の致命的なコミュニケーションミスや、いざというときに取捨選択を決断できるリーダーシップの不在など、数々のヒューマンエラーが介在していたことが明らかである。むしろ、われわれが最も真摯に反省しなければならない点は、ハード面での不備ではなく、日頃からの危機に対する意識や優先順位を決めて損切りを決断するリーダーの養成だったのではないかと、船橋氏は言うのだ。実は同様の問題が、国会事故調の黒川清委員長による英文の最終報告書で指摘されている。
ところがわれわれの目は、そうした問題にほとんど向いていない。また、実際にそうした反省に立って、対策が取られている形跡も見られない。特に安倍政権は、より厳しい安全基準を設定したのだから、原子力規制委員会の審査にパスした原発は再稼働することが当たり前であるとの立場を取っている。元々、原子力規制委の前身で、今回の事故で全く役立たずの烙印を押された原子力安全・保安院は、1999年のJCO臨界事故の反省を受けて作られた組織のはずだった。それが今回の事故ではまるで機能しなかった。ところが今回もまた、福島原発事故の教訓が十分に活かされないまま、組織の改編と安全基準のマニュアルの変更が行われただけで、事故の反省は終わってしまいそうな様相を呈している。この現状を、われわれはどう受け止めたらいいのだろうか。
船橋氏は今回の原発事故に、先の大戦での失敗と同じ構造があったと指摘する。原発の過酷事故は直ちに国家的危機となる。その自覚もないまま、安全対策をおろそかにして絶対安全神話なるものに寄りかかり、最後は何とかなるだろうという楽観シナリオに基づいて原発依存に突入した様は、勝算もないままアメリカとの戦争に突入した時といろいろな面で酷似しているというのだ。
そもそも日本社会には異質なものを排除して、同質の価値観だけで物事を進めていく「空気の支配」という特性があることが指摘されて久しい。それは全体の秩序を維持し、一つの共通の目標に向かって邁進する上では武器となり得るが、何か問題があったときにそれを言い出すことを難しくさせる。それが誰も「撤退」を言い出せない空気が支配する文化を作っている。日本中が安全神話の下で原発推進に邁進する空気の支配の下で誰かが異論を唱えれば、単に排除されるだけだ。原発についても、一部の良識ある関係者の間では危機意識があったが、それを言い出すことができなかったと答えた人が多くいたことが、船橋氏の調査でも明らかになっているという。
では、福島の事故を無駄にしないために今、われわれに何ができるだろうか。船橋氏は何よりも事故の原因究明をより厳密かつ詳細に行い、事故と事故対応における失敗の責任の所在を明らかにすることが何よりも重要だと主張する。そこを曖昧にしたまま組織や仕組みをいじってみても、本当の意味で事故の教訓が活かされることはあり得ない。そして、それはわれわれが第三の敗戦に向けて邁進する道を選んだことを意味する。
われわれはなぜあれだけ酷い目にあっても、その原因と真摯に向き合い反省することができないのか。東日本大震災、福島原発事故から3年が経過したいま、事故に至る経過と事故への対応、そして事故後の原因究明や新たに作成された安全基準などから見えてくるわれわれ日本人の弱点について、先の戦争の反省と絡めながら、ゲストの船橋洋一氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
福島第一原発の復旧に当たっていた作業員が被曝し、タービン建屋内の水から通常の1万倍の放射能が検出されるなどの事態を受けて、原子力安全・保安院は25日、ついに 「原子炉のどこかが損傷している可能性が十分にある」ことを認めた。実際には津波や相次ぐ爆発、海水注入や放水などの影響で、ほとんど全ての計器類が止まっているた め、政府も東電も肝心の原子炉が現在どのような状態にあるのかを正確には把握できていないのが実情のようだ。
大量の核燃料が入った原子炉が損傷を受け、しかもそこから核燃料が漏れ出している可能性がある。にもかかわらず、「確認ができないので不確かな情報は出せない」というのが政府・東電の一貫した態度だ。果たして本当にそれでいいのだろうか。しかも、燃料漏れが指摘される福島第一原発3号機は、プルトニウムを含むMOX燃料を使ったプルサーマル原子炉なのだ。
不必要な不安を掻き立てることは避けなければならない。しかし、人体や環境に長期にわたり不可逆的かつ深刻な被害をもたらす原発事故は、予防原則の立場に立ち、常に「最悪の事態」を想定して対応する必要がある。
そこで今週のマル激は、25日(金)21:00から4時間にわたる生放送で、ここまで確認された情報をもとに、現在の原子炉がどのような状態にあるのか、そこから想定し得る「最悪の事態」は何なのかを専門家らとともに検証した。後半は、「最悪の事態」にどう対応すべきかについて、放射線の専門家らに意見を聞いた。また、枝野官房長官の記者会見で、政府の考える「最悪の事態」についても問い、その返答についても議論した。
京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏の想定する「最悪の事態」は、原子炉が溶け落ちて(メルトダウン)水蒸気爆発を起こし、原子炉内の燃料から放射性物質がすべて環境中に放出される事態だ。「この最悪の事態を防ぐ手段は、原子炉、使用済み燃料プールの『冷却』だが、被曝環境での作業は大変な困難をともなう。冷却を循環的に行うポンプの回復ができるかどうかをまず注視したい。さらに、もしポンプの回復ができたとしても安定的に冷却される状態になるには少なくとも1ヶ月はかかる」と小出氏は見る。また、放射性ヨウ素、セシウムに加えて、作業員が被曝したタービン建屋の水からバリウム、ランタンなどの物質が検出されたことについて小出氏は、「燃料棒を覆う部分(ペレット)が一部溶けている状態であることを示しており、炉心の破壊が進んでいるのではないか」と危惧する。
NPO環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏が「一番現実的な最悪シナリオ」と考えるのは、爆発が起こらずとも、冷却作業を続ける間に、大気中、水中、土壌に長く放射能が漏れ続けるという事態だ。住民の避難や水道水、海産物の汚染が長期間続くことになる。
飯田氏はこの「現実的な最悪シナリオ」に対して、「広範囲なリアルタイムモニタリングとシミュレーションを組み合わせる、つまり現実と予測をつき合わせたデータがなければ手の打ちようがないが、現時点では政府には司令塔が不在で、この作業が進んでいないのではないか」とみており、「被曝管理、放射能漏えい量の測定、現実的・技術的な広報」という3つを組み合わせた対策を早急に練る必要があると話す。
25日に福島県入りし、今後現地での調査を行う琉球大学名誉教授の矢ヶ崎克馬氏は、福島県や首都圏で水道水や野菜など体内に入るものから基準値を超える放射性物質が検出されたことについて、「体内に放射性物質が入ることで起きる「内部被曝」の危惧が高まった。今は怯えている段階ではなく、被曝は避けられないという意識を持ち、できる限りの手段で防御策をとることが必要だ」と話す。
放射線医学の専門家で元岐阜大学医学部助教授の松井英介氏は、「外部被曝では、外部からの放射線は体を透過する。内部被爆では、尿などにより体外に放出されず体内にとどまった放射性物質が、繰り返しアルファ線・ベータ線を出し、繰り返し遺伝子を傷つける」と言う。
「ただちに健康に影響はない」という説明は、皮膚がただれるなど急性症状にはならないと言っているのか、何を意味するのかの説明がない点が、われわれの不安の元になっているとしたうえで、内部被曝で重要なのは、急性の症状ではなく、遅れて発症する「晩発(ばんぱつ)障害」、もうひとつは「蓄積性」だと言う。水道水などから検出された放射性ヨウ素131は、体内では選択的に甲状腺に蓄積される。また、小さい子どもは特に影響を受けやすいため、成人男性とはまったく別の問題として考える必要があると話した。