何を隠そう、私は一時、芸大でインダストリアルデザインを学び、カーデザイナーを目指したことがある身だ。
という大上段の構えで切り出したのは、今日はクルマのリア、つまりお尻のデザインについての日記を書いているから。(笑)
クルマのリアデザインは、最も長く見られる宿命にあるため、デザイン的には、フロントよりも、遙かに難しく、また力量が問われる部分なのだ。
交差点で止まっていると、イヤでも前のクルマのリアが目に入ることになる。
そのため、そのクルマが魅力的な尻かどうかは、クルマの印象を大いに左右することになるわけだ。
いわゆるバックシャンかどうかは、意外に重要な要素なのだ。
さてそこで、まず取り上げたのは、街で時々見かけるようになってきたクラウン。
エグゾーストパイプは隠すデザインとなっているが、これは良い傾向だ。
フロントの下品なデザインに比べると、リアは遙かにエレガントでまとまりのあるデザインだ。
前と後ろを同じ人間がデザインしたとは思えないところが、クラウンの全てを物語っているのではないだろうか?
こうして3車を比べると、クラウンのリアは、光り物が結構多いことに気がつくだろう。
クルマのビアビューでは、テールランプの上のエッジから水平に繋がっているラインは、デザイン上では大きな要素となるわけだ。
クラウンは、そのラインが光り物でもって遮断されているため、ライン全体の印象が、煩雑に感じることになってしまっている。
実に惜しい。
同じ目線でBMWを見ると、テールランプの上のエッジの水平ラインが、きれいに繋がっていることがわかるだろう。
BMWでは、バンパーに小さな赤い小さな反射鏡がアクセントとして置かれている。
こうすることで、視覚的にバンパー部部が、上下に広く見えず冗長な印象を消す効果が生まれるのだ。
クラウンは、反射鏡を最下部に置いている。
クラウンのバンパーはマスの中央部分には何もないうえ、バンパー全体が丸みを帯びているため、バンパーのマスが大きくヌメッと見えてしまっている。
BMWはテールランプの下と、バンパーの下の2ヶ所にエッジが付けてある。
こうすることで、立体的でシャープな印象を与えているわけだ。
クラウンは RoyalSaloon のエンブレムが上の外側、BMWでは 523i のエンブレムはリアコンビネーションランプの内側下にある。
BMWの方がクラウンより重心が低く見えるのは、こうした点も一つの要因となっているのだ。
さてそこで C6 を並べてみると、C6 だけは他の2車とは文法が、全く違うことに気づくはず。
後ろから見ると、クラウンよりBMW5シリーズの方が、フォルムが台形のため、安定しているように見える。
そしてさらに C6の方がより安定して見えるはず。
これには理由がある。
トランクの開口部のいわゆるトランクリッドの切り欠きが、クラウンやBMWは「逆ハの字」形状となっている。
対して C6 はほぼ垂直のラインで形成されている。
どちらの形状が安定感をもたらすのかは、言わずもがな。
リアエンドの断面はMBWの方がエッジが効いてシャープ。
クラウンの方が膨らんでいるように見える。
C6は、よく見ると、何と3D的に立体的な造形で構成されているのだ。
トランクの上部曲線は手前へせり出し、ライセンスプレート部分では奥へ控えた位置となり、クロームのオーナメントから下は、再び手前へせり出しているのだ。
さらにC6では、光り物のクロームトリムが、低い位置で真一文字にストレートなアクセントとして置かれている。
これが目線を低い位置へ誘導し、安定したフォルムとして感じさせる要因ともなっているのだ。
C6 の反射鏡の位置は、三者の中では、もっとも内側に位置している。
つまり左右の間隔は最も狭いわけだが、上のクロームの幅との関係で、目線が内側へ誘導されることになる。
台形のどっしりしたフォルムをベースに、クロームと薄く赤い反射鏡とが織りなすラインが、視線を内側へ引き締める効果を生み出しているのだ。
こうして三車を見比べると、C6はモダンでありながらクラシカルな雰囲気をも兼ね備えていることが伝わってくる。
車に限らず、何物にもすり寄ることなく、真のオリジナリティーを持つ孤高の作品は、時の流れにも決して色褪せることがないのだ。
こうして、ジャン・ピエール・プルーエは、クルマを通じて、路上へ動く芸樹芸術作品として解き放った、最初で最後のデザイナーとなったわけだ。
は、言い過ぎか。(笑)
彼の名は、カーデザイナーとして、永遠に名を残すことに成功した希有な例として、永遠に語り継がれるはず。
ジャン・ピエール・プルーエ 何とフランス的な響きの名前だろうか。
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