世界一予約の取れないレストランとは、スペインのカタルーニャ州コスタ・ブラバのロザスにあるレストラン「エル・ブリ」(elBulli)。
料理長はフェラン・アドリアで、エル・ブリ(elBulli)は1964年に開店。
イギリスの雑誌「レストラン」では、5度の「世界一のレストラン」に選ばれている。
オープンから46年が経ち、料理長のアドリアは多忙過ぎて、自分自身の料理を見失ったという理由で、2012年と2013年に一時休業。
2014年からは、エル・ブジに隣接して建てられる料理の研究機関「エルブジ・ファウンデーション」として活動を再開する予定だという。
店は財団に改組、これまでの料理を記録した博物館へ。
さらに、30人ほどのスタッフと新たな料理の研究に打ち込み、「常に新しい舞台をつくり続ける事が創造性というものだ」という彼の信念から、成果はネットで発信するという。
全45席しかないうえに、営業は一年の半分のみ。
じゃあ残りの半分は何をやっているのかというと、翌年のメニューの研究をしているのだ。
このレストランは年間8千席程度のキャパに対し、予約申込者数はなんと約200万件!
というわけで、予約できるかどうかは、まさに運次第。(笑)
コースメニューでは、4時間かけて35種類から50種類の料理が提供されるという。
シーズンが変わる度に、メニューは変更され、同じ料理が出されることは二度とない。
気になるお値段だが、一人分の料理が270ユーロ(約3万円)。
しかも、ネクタイとジャケット着用などといったドレスコードなどは一切なし。
ジーンズとTシャツ姿でもOKだという。
映画では、常に客に驚きを提供するために、半年かけてオリジナルメニューの試作する様子を、ドキュメンタリーで追っている。
客が飽きないよう、あらゆる素材と調理法を組み合わせ、全てが食感を含めて料理長が吟味しながら決められてゆく。
そのためには、あらゆる手段を使い、時には液体窒素を調理に使ったりする様子もカメラに収められている。
方向性と、素材と食感で常にインパクトのある斬新な料理を提供するというポリシーのため、味は最後に決められる。
つまり味がいいとか、美味しいというのは、このレストランでは最後のフィニッシュで、どうにでもできるようなのだ。
試作された料理は失敗作を含め、そのレシピは全てPCに打ち込まれ、創作過程の全てを記録として残されてゆく。
映画ではPCのデータが消えたことで料理長が激怒するシーンも収められている。
消してしまった側の2人のシェフとの遠慮のないやりとりが見物。
料理長は、何故消えたことを言わなかったのかと、文句を言うのだが、消してしまった本人とその上司の、いわゆるシェフ側は、すべてプリントアウトして残してあるから、記録は残っていると抗弁。
料理長は消えた時点で、報告しなかったことを怒っているわけで、映画では議論はすれ違ったままで終わるわけだが・・(笑)
料理長いわく「創造は朝起きたら湧いて出るものじゃない。創造とは日々の積み重ねだ。」
なるほど。
年中味見をしているせいだろうか、料理長のお腹は妊婦のように膨らんでいた。(笑)
3000人もの中から選ばれた料理人たちは、新作の作り方を一から教わるわけだ。
だが、映画の中でも料理長による「創造することと調理することは全く別だ」という姿勢が一貫しているわけで、さすが。
料理長のアドリアは、分子調理法を完成させたとして一躍有名になったわけだが・・
キッチンにはフラスコやスポイトなどの実験室でおなじみの用具やソーダサイフォン、減圧調理器具といった最新鋭機器が揃えられている。
食材を粉砕したり、泡にしたり、冷凍したり、真空状態にするなどの工夫で、味や香りを失うことなく、胃袋にもたれないメニューを次々と考案し、それまでの料理の概念を根底から覆してしまったわけだ。
たとえば、「ハムメロン」の場合、シャンパングラスに入ったドリンクとして供される。
よくある定番の前菜「生ハムメロン」とは似ても似つかない形状だ。
メロンの果汁とアルギン酸を混ぜて球状に凝固させ、ハムのコンソメに浮いている、といった案配だ。
食べた人の話によると、全ての料理の食感はあり得ないくらい軽いらしい。
口の中でサーッと溶けてなくなってしまうものが多いため、30種類以上のコースでも、それほどハラにもたれないということのようだ。
料理を提供する場では、もの凄い数の人間が右往左往している。
エル・ブリのように料理の品目が多い場合は、調理する人間とその効率性がサービスに直結することになるからだろう。
まさに戦場だが、一ヶ月の売り上げは3千375万円。
エル・ブリの味をどうしても知りたい場合は、セビーリャの郊外にあるエル・ブリのホテル(HACIENDA BENAZUZA)で予約を入れるといいだろう。
このホテルのレストランでは過去にエル・ブリで出された人気メニューを味わうことができるという。
ちなみに「エル・ブリ」という名前は、その地方で「フレンチ・ブルドッグ」を意味する。
1960年代に最初に土地を購入し、レストランを開いたドイツ人オーナー夫妻の愛犬がフレンチブルだったからだという。
料理長のフェラン・アドリアは、米ハーバード大へ招かれ、講義を行っている。
「知的な雰囲気に圧倒されたよ。学生たちに新たな世界を知ってもらえたと同時に、自分がやってきたことを考え直すきっかけにもなった」。
と述べているが、彼は以後5年間予定されているハーバード大学での講義を、楽しみにしているのだという。
料理関係の方がご覧になれば、結構インスパイアされるはず。
ぜひ、ご覧あれ。
ジーンズとTシャツ姿でもOKという料理店は、珍しいかもしれません。