多くの方は「フリーエージェント」(Free Agent)というと、スポーツ選手を連想されるかもしれない。
所属チームとの契約を解消し、他チームと自由に契約を結ぶことができるスポーツ選手のことを「フリーエージェント」(以後FAと略す)と呼び、自由契約選手とも呼ばれている。
最近ではもっと狭い範囲で「特別な移籍自由の権利を持つ選手」を指す言葉としても使われている。
だがビジネスの世界では「組織にぶらさがらず、やりたいことをやって、食っていける人」の事を指す。
日本では特にやりたいことをやっているわけでもなく、組織にぶら下がっている人や、形としては独立していても大企業の下請けとして組織にぶら下がっている人が大多数を占めているのが現実だ。
だがほとんどの国、とりわけ先進国では、FAの割合は年々増加しているにもかかわらず、日本だけは、いわゆる「自営業」が減り続けている。
FAはダニエル・ピンク氏による「フリーエージェント社会の到来」というベストセラー書によって広く世に知られることになった。
氏は1 年をかけて全米を旅行しながら、多くのフリーエージェントに出会い、その働き方の詳細を含め、成功している人たちだけではなく、万年臨時社員として不当に搾取されている層についても論じている。
日本でも翻訳出版されて、話題となったため、ご存知の方も多いかもしれないが、この本では米国のFAたちが、その働き方を選んだ理由や、生活と仕事の実態などが詳しく描かれている。
ダニエル・ピンク氏はワシントン D.C.在住で1964 年生まれ。
米国ノースウエスタン大学卒業、エール大学ロースクールで法学博士号(J.D.)取得。米上院議員の経済政策担当補佐官を務めた後、クリントン政権下でロバート・ライシュ労働長官の補佐官兼スピーチライター、1995 年から 97 年までゴア副大統領の首席スピーチライターを勤めるという経歴をお持ちだ。
FA宣言後、ファストカンパニー誌やニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙をはじめとするさまざまなメディアにビジネス、経済、社会、テクノロジーに関する記事や論文を執筆されている。
FAの要点をまとめると、次のようになる。
20 世紀後半までアメリカの社会と経済は「オーガニゼーション・マン」(組織人間)によって支えられてきたが、21 世紀前半の米国を象徴するのがこの「フリーエージェント」。
FAとは、大きな組織のくびきから離れ、一人の上司の下でなく、複数の顧客を相手に、自分自身にとって望ましい条件で独立し働く人たちだという。
そしてFAはおおよそ次の3つに分類できるのだという。
1・ 「フリーランス」(特定の組織に雇われずにさまざまなプロジェクトを渡り歩いてサービスを売る。独立契約者(インディペンデント・コントラクター)、コンサルタント、インディペンデント・プロフェッショナルともいう)米国では約1650万人。
2・ 臨時社員(臨時で働く経営幹部、弁護士、看護師から、派遣会社を通じて働く人までを示す)米国では約350万人。
3・ ミニ起業家(従業員 5 人未満の小さな企業)米国では約1300万人。
米国では労働人口の 4分の1に相当する3300 万人がこの働き方を選択しているという。
ちなみに米国の公務員の人口は約2000万人。
日本の公務員数は450万人ほど。
人口千人当たりで比較した公務員数の国際比較を見ても、米国の222人に対して日本は175人と少ない。
だが、忘れてはならないのは、天下り。
「特殊法人」、「認可法人」、「独立行政法人」、「民間法人」などがぶら下がり、その下にさらに膨大な数の「公益法人」がぶら下がっている。
フリーエージェントの登場には、次のような4つの大きな変化が背景となっている。
・従業員が忠誠心と引き換えに会社から安定を保証される関係の崩壊。
・生産手段が小型で安価になり、個人で所有できるようになった(例ノートパソコン)
・仕事の目的が生活の糧を得るだけでなく、やりがいを求めるようになった。
・組織の寿命が短くなり、勤め先より長く生きるようになった。
彼らが最も重視するのは「自由」で、それによって新たな労働倫理も生み出すことになった。
それは「自由」「自分らしさ」「責任」「自分なりの成功」の 4 要素から構成されるものだ。
忠誠心も上司や組織に対する「タテの忠誠心」に代わり、チームや同僚、顧客、職業、家族や友人への「ヨコの忠誠心」へと変化をしているのだ。
彼らは孤独に耐えるのではなく、さまざまな小規模グループを形成し、そこでの人間関係は緩やかで流動的でえり好みできることが特徴だという。
「あなたがいつか力になってくれると思うから、今あなたの力になろう」という、スマートな考え方が土台となっている。
工業経済の時代には、仕事と家庭は切り離されていたが、FA経済はそれを再統合しようとしているように見える。
「仕事か家庭か二者択一、バランスを取る」ではなく、両者をブレンドしているといっていいだろう。
FAによってビジネスやキャリアのあり方、コミュニティーの築き方も変わってくるかもしれない。
経済の生態系には巨大企業とミニ企業が主に生息し、中間サイズは廃れてゆく。
これまでの管理職は姿を消し、特定プロジェクトのため適材適所の人材を集められるプロジェクトマネジャーが生き残る。
地域社会やコミュニティーは活気を取り戻し、FAの未来は、男性ではなく女性が中心になって築いてゆくだろうと予測している。
さてこうしてFAについて調べてみると、フレッシュなだけではなく、実践的でさらに現実性のあるスタイルに思えるのだが、さて皆さんはどう思われるだろうか?
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