ミュンヘン

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強烈で壮絶な印象によって、観終わってからしばし呆然とするほどのインパクトを持つスピルバーグ監督の「ミュンヘン」。

ミュンヘン五輪で選手11人をパレスチナ・ゲリラに殺されたイスラエルは報復のために、諜報機関モサドの精鋭5人に対してパレスチナ人11人暗殺を命じたという実話を映画化したもの。

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中東から見れば Far Eastの日本では、住む国のない民族の悲しさ、異教徒を受け入れない宗教などにまつわる泥沼を味わうことはない。

また、パレスチナ問題というのは歴史が深く複雑で、我々日本人にとっては、身近でない分、理解することが難しい問題として捉えがちだ。

そのため、私も含めて多くの日本人は、中東問題の根深さが、人間が根源的に持っている本能的な闘争本能と憎しみが交わることから来ているという本質の部分を、掘り下げて考える機会 にはなかなか出会えないのが普通だろう。

ともすれば「スパイ大作戦」のような痛快娯楽アクションという味付けにもなりがちなこのような素材を、スピルバーグはまったく違った面からアプローチし、自分があたかもイスラエルのモサドの一員となったような視点で、この出来事を少し離れて客観的な位置から観せることに成功している。

当時のオリンピック選手村での事件が、その後どのような展開を見せたのかを、世界中の人に わかりやすく見せるという意味でも、非常に優れた作品といっていいだろう。

 

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クランクインしてから6ヶ月で公開までこぎつけたという、早いテンポの撮影による影響かもしれないが、冒頭から張り詰めた緊張感は途切れる事なく 、緩急のテンポとメリハリをつけながらラストまで続くため、164分を長いと感じないことからも、いかにこの映画が面白いかがわかるだろう。

組織的な殺戮というスパイ映画のようなスリリングさを併せ持つ展開と、テロの首謀者であるパレスチナゲリラ幹部に報復するバイオレンス描写のリアルな壮絶さは、愛する子供と妻を持つがために、暗殺者として終わりの見えない報復の繰り返しに苦悩する姿 をさらに深く印象付ける効果を生み出している。


この作品は「ターミナル」「宇宙戦争」といった作品とはまったく違う系統の「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」に属するものだが、ユダヤ系アメリカ人のスピルバーグ だからこそ表現できる世界を、彼はすでに築きあげているようだ。

見事な脚本に加え、ジョン・ウィリアムズの印象的な旋律が、この作品を一体化させる効果を生み出し、映画の魅力をさらに磨き上げている。

また、時代が時代だけに72年以前の車がたくさん登場するのだが、ルイのシトロエンDSの美しさは絶品。

こういうところのセンスは、スピルバーグならではのこだわりなのか?

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イスラエルの首相と上官の「テロとは断固戦わなければならない。これも中東の平和のためだ」という言葉で、主人公のアヴナーは祖国イスラエルへの忠誠心から 暗殺が任務の作戦に参加する。

だが相手を次々に殺してゆくうちに、アヴナーは自分がテロリストと同じことをやっていることに気づき苦悩する様は実に切ない。

自分の行為の正当性をめぐるジレンマに陥り自分を見失うのだが、映画のラスト で妻の愛によって救われることによって、観客もそれまで映画から受けてきた重苦しさから同じように開放される気分になる、という脚本のうまさには脱帽だ。

スピルバーグはイスラエルでもなくパレスチナサイドではない、基本的にはニュートラルな目線で、復讐という行為が殺された者も殺した者をも、救いのない精神的な苦しみのサイクルへと導いてゆく恐怖と悲しみを、うまく表現している。

 

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ミュンヘンで11人を殺した実行犯のうち三人は生きて逮捕されハイジャックの人質と引き換えに釈放され、一人はパレスチナ人同士の内輪もめで死亡 し、一人は心臓マヒで死亡、だが一人は今も元気に生きているという。

復讐は復讐を呼び、果てしなき殺し合いは女性や子供も容赦なく巻き込み、アヴナーも仲間を次々に失い追い詰められてゆく恐怖が、テロへの報復がさらに恐怖を拡大 するのと同じ構図で追い詰める迫力は、観るものを圧倒する。

「イラク戦争」と「911」をを暗示するかのように、ラストのショットで川向こうにWTCが見える。

凄い映画だ。

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