トランス状態

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音楽には膨大な情報が含まれている。

複数の音色、リズム、旋律、言葉が絡み合って時間的に変化してゆくため、人間の脳は瞬時に暗記することはできない。

だが、ビートから生まれる高周波による非定的な持続音と低周波衝撃音がミックスしたものが耳から脳へ到達すると、脳はさらなる脳内エネルギーを生み出し、脳を活性化させてゆく。

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波長の合う音楽のから感じる心地よさや、病み付き度の高さ?の構造を冷静に分析すると、このような脳の持っている高度なシステムによって、もたらされている。

音色、リズム、旋律、言葉が絡みあっているため、最初のうちは、脳にとって瞬時には理解できないものとして映るわけだ。

だが繰り返し反復体験することで、脳は次第にそのエッセンスを記憶しはじめる。

 

 
メロディーや歌詞からのイメージがリアルタイムで脳内に刻み込まれるに伴い、発生する脳内エネルギーは、時には右脳によってプレイヤーの姿さえ描き出し、それはやがて音楽の持つ細かいニュアンスを感じ取るレベルにまで増幅するようになる。

驚くべき能力といっていいだろう。

その理由は、こうした音楽の反復体験による「咀嚼(そしゃく)」を繰り返すことによって「視聴覚器官を通して脳内神経が刺激され、脳内麻薬物質(エンドルフィン)が作用し、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質を多量に放出された状態」に陥るためだと考えられている。

この反復咀嚼によって、脳はその曲を自分自身の精神的な成長の糧として利用し始めるというわけだ。

このように目や耳などを通して刺激を受けると、普段働いている自意識や自己防衛という理性は沈静化し、本能が突出した状態へと移行することになる。

そして潜在的な否定的情動が解放され、リラックスした状態になるというわけだ。

 


トランス状態にはさまざまなレベルがある。

浅いトランス状態では、物事に対して夢中になったり没入することができる。

その結果として飛躍的に作業効率がよくなり、それが素晴らしい結果をもたらしたり、思いもよらない発見に繋がることは、誰しもが一度は体験したことがあるはず。

酒飲んだり、本をゆっくりと楽しんだりといった自分が好きなことをしている時というのは、いわば浅いトランス状態に入っているといえるのだ。

それが心地よさとなり、ストレスを解消させ、心を癒すことに繋がるというわけだ。

 

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さらに深いトランス状態になると、自我を失い、本能を剥き出しにするといった状態になるのだが、そのためにはドーパミンなどの神経伝達物質が大量に放出される必要がある。

そのためには、いわゆる「ドラッグ」を利用して精神変容物質を体内に取り込むという方法がある。

手っ取り早く即効性のある方法だが、急激さが過ぎるとカラダへダメージを与えることになり、多くの場合法に触れることになる。

 

 

そこでより安全でコントロールしやすい方法として「音楽を楽しむ」ことをお勧めしたい。

インドネシアのバリ島には「ガムラン」という民族楽器がある。

ガムランは宗教儀式などで演奏や踊りを伴って精神を高揚させ、薬物を用いることなくトランス状態へ導くために利用されている。

日本でも巫女が「神がかり」として神が乗り移り、別人のようになることがあるのだがこれもトランス状態を利用した方法だ。

 

  

脳内伝達物質が放出されるためには「視聴覚器官を通じて」脳内神経が刺激されなければならないのだが、そこでのキーワードは「非日常性」。

宗教の儀式的な場面では様々なところで「非日常性」が演出されている。

視覚面においては、派手な仮面や衣装、儀式の場を彩る飾りつけに加えて、そして儀式が行われる場として「聖域」を意識させることで、巧みに非日常性を高めるわけだ。

 

  

つまり非常に特殊な非日常性をどのように演出するのかによって、その効果は大きく変化することになる。

80年代に生まれたマシンビートのリズムとシンセサイザーを用いたループが基本のハウスとテクノは「クラブミュージック」と呼ばれている。

「聴いていて気持ちが良く躍りたくなる」という目的だけのために作られた音楽は「恍惚感」を呼び起こすことを目的としている。

そのため現在も続いているクラブミュージックは別名「トランスミュージック」と呼ばれている。

わかりやすい単調な展開と4つ打ちと重低音と高音の組み合わせというのは、まさに宗教音楽の手法そのものなのだ。

  

  
アップルは「聴覚によって咀嚼反復できる装置」で日常のシーンでこうした状況を手軽に手に入れることができるという製品を販売し、それが大成功を収めたことは、みなさんすでにご承知のことだろう。

さらにそれを聴くことが「お洒落」だというイメージを植えつけることにも、まんまと成功したのだ。

私は4台も持ってしまっているのだけどね。(笑)

こうした装置を手に入れ、一度でも脳に「味を覚えさせてしまう」と、いつでも好きなときに何度でもそれを再現したいという欲求が生まれるのは当然のこと。

 

  

だが購入した楽曲に対して「ダウンロードしたPCでしか聴けません」、「音楽CDを作るのはダメです」といった制限がかかると、咀嚼欲を制限されることになり、そこから不満足感が生まれる。

欲を自分でコントロールする分には問題ないが、他者から制限されると反発が生まれる。

残念ながら日本の音楽業界のオエライさん達は、最も肝心な部分を理解、というか体験をしていなかった。

  

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Music Store の仕組みや iPod iPhone との関係は、こうした欲を満足させ、さらに欲求を求めるという利用者の心理を理解し、満足させるシステムとして機能している。

アップルは、著作権に厳しい日本でさえ、徐々にだが他国と同じ条件を引き出しつつある。

「アップル教」は、カネや権利を主張するのではなく、脳の仕組みから生まれるユーザーの気持ちを大事にする若者の支持を、まず獲得することに成功したのだ。

  

 

自分の気分にあった音楽を選択し、いつどこでもどんな時にも、トランス状態を作り出し、それを自由にコントロールすることができる iPod。

あとはそれをどう使うかだ。

こうしたシステムを、未だに使ったことがない、あるいは持っていても使わない、使えない人というのは、たぶんあそこらへんに「ぺんぺん草」が生い茂っていることだろう。

ご愁傷さま。(笑) 

 

 

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