「戦略なき戦術」という言葉があります。
「木を見て森を見ず」というのもこの「戦略なき戦術」の一種といえるでしょう。
戦略というのは、わかりやすく言えば、全体の見取り図のこと。
目的を達するためには、常に最悪の事態も想定しておく必要があります。
トレードで言えば、儲かった脱出ポイントを考えるだけではなく、カットロスのポイントを決めてからエントリーするということで、これはワンクリックシミュレーションでも繰り返し解説しています。
つまりエントリーした後でのカットロスポイントの設定は、「戦略なき交渉」になりやすいのです。
時間を無駄に遣い、トレードをギャンブルにしてしまうことにもなりかねません。
一方で戦術というのは、戦略の下位に相当する概念で、軍事的に言うと、一回の戦闘行為における戦力の使用法を戦術と呼んでいます。
ですが一般的には、ある目的を達成するための具体的な方法を戦術と呼んでいます。
たとえば会社に置き換えると、戦略を「株主や社員に感謝され、社会に貢献する会社」を経営者が目標にしていたとします。
その場合、法を守ることや実力に応じた人事、適切な商品開発、システムの改善、そしてリストラなど、ほとんどの改善策というものが、戦術となります。
つまり商品開発やリストラは目的ではなく「株主や社員に感謝され、社会に貢献する会社」にするための手段だということになります。
ではトレードの場合はどうなるでしょうか?
勝率、利益率、マネーマネージメントなどの個々の要因はいわゆる、戦術です。
その戦術を組み合わせて、自分の毎日の生活をどのようなものにするのか、あるいは、得たお金を何のために使うのか?というのが戦略になります。
では誤った手段や戦術を目的としてしまうと、どういうことが起きるのでしょうか?
個々の要因にこだわりすぎ、それが間違った方向へ進むということはよくあります。
たとえば、勝率はよくないが「儲かりさえすればいい」「儲けが出ていればそれは正しいやり方だ」という考え方があります。
資金がある程度大きくなってくれば、トレンドに沿っている限り、かなり低い勝率でもトータルで利益が出るようになります。
ですがそれは、ただ一つの戦術が初歩の段階で達成できているだけに過ぎないのです。
まず最初は損切りを薄くして、勝率が低くてもトータルで勝てるようになる必要があるのですが、そうした段階を過ぎると、次は戦術をよりブラッシュアップして勝率を上げるという次の目標を設定しなければなりません。
軍隊では指揮官のミスジャッジで、多くの部下の命を危険に晒すことがあります。
戦闘では同じ距離を侵攻するために、部下の死傷者をどれだけ少なくできるのかは、まさに指揮官の戦術の腕次第。
部下の命を失うことを気にしない指揮官のもとへ、優秀な部下が集まることはないということを忘れてはなりません。
では同じことを会社のケースにあてはめてみましょう。
売り上げは大きいが、利益が少ない会社は、いわゆる商品のヒット率が低いということになります。
または経費などの支出が多すぎるケースもあります。
ヒットを出せないいわゆる赤字の部門をどんどんと切り捨てて、儲かった部門だけを残すということは、ごく一般的に行われるやり方です。
ですがこれも程度問題です。
行き過ぎればリストラをやり過ぎて、会社の活力がなくなるなどという弊害で、最後はよくない結果となりやすいのです。
自動車メーカーなら、売り出す車種がすべて採算ラインに乗り、大ヒットするのが理想でしょう。
ですが、現実問題としては、そうはゆかないので、売れない車種は切り捨てるとかモデルチェンジをして対応することで、トータルで黒字にしているわけです。
まともな戦略を保持し続けるためには、自分の位置と実力を客観的に見ることができなければなりません。
この前提を見誤ってしまえば、どれだけ戦術をたくさん組み合わせても、結局長いスパンで見るとうまくゆかなくなるのです。
これは歴史が証明しています。
ですから会社がどの程度儲かってきたら、何のために会社を運営するのか?
ということを経営者はよく考える必要があります。
利益が出てくれば、自分の会社の従業員にこそ、利益を分配すべきなのではないでしょうか。
下請けを泣かせて、自分だけ儲かるような仕組みを作る、あるいは儲かっているのに従業員へそれを分配せずに給与をできるだけ抑える。
そうして利益を出せる会社にする。
これは日本の大会社に多く見られる、間違った戦略の結果なのですが、経営者はそれを正しい、あるいはこれこそが儲かる仕組みだと胸を張るのです。
見取り図という戦略がないままでトレードを始めてしまうと、とりあえず「儲かっていればそれは正しいトレード方法だ」という発想になってしまいがちです。
見取り図をつくったうえで、できるだけ短い拘束時間で利益を出す方法や、できるだけ負けない戦術を常に考える、などという本来の常識的な正論に従って、しっかりと検討し、時にはシミュレーションへ戻り、謙虚な姿勢で次のレベルへと一歩ずつ進むことは大事なことです。
マーケットの指数を見ながらマーケットが強いときは積極的に進み、トレンドがハッキリしないときはトレードの数を抑えるなどという考え方を「戦略的思考」と呼びます。
つまり戦略的思考というのは、自分が置かれている状況を正確に把握して、位置づけを客観視できる能力が備わって、初めて可能になる発想だといってもいいでしょう。
ですがだからといって、見取り図さえあればいい、という問題でもないのです。
そうしたレベルが達成できると、次には儲けたお金を使って、自分の人生をどのように変えたいのかというレベルの戦略を持っているかどうかが問われることになります。
好きになった相手と共に過ごしたい、交際したいという目的で、ストーカーという戦術をとってしまうと、その夢が叶うどころか、逆に警察に逮捕されることになってしまいます。
このような例だとよくわかるのに、トレードになると何故見えなくなるのでしょうか。
欲と恐怖の渦巻くマーケットに「どっぷりと嵌っている」時間が長くなると、精神的なバランスをとることが難しくなってきます。
ですから時にはそうした世界から離れ、違う世界へ身を置いてみる、というのが有効な戦術になることもあるのです。
目的とする戦略のために、そのときに最適な戦術を選択し、効果的に使えるように精進する。
これこそが最もやりがいのある、、究極の戦略なのかもしれません。
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