慣らし運転中で、エンジンを5000回転以上に上げられなかったため、Boxter S のインプレッションを書けなかったのだが、ようやく車の走行距離がインプレッションを書ける距離に到達。
マイクロロンの効果だろうか、ボクスターSのエンジンは、さらにスムースに回るようになり、アクセルを踏むとそこはまさに悦楽の世界。
オーディオのサウンドもエージングが進んできたため、柔らかいのだけれど腰のある魅力的な音色へと変化してきている。
それはさておいて、ようやく評価できる状態になった時点での、最初のインプレッションをお届けしよう。
銀座に住んでいると、毎日の足としては自転車の方が遥かに便利なため、毎日の生活で、車を使う時間というのは余りないのが正直なところだ。
では何故ボクスターを買ったのか?
それは精神的な部分への影響が大きいからで、これは以前911で10万キロ以上走った体験を通して、オレ的に証明されたことだからだ。
車を買う行為というのはその車の「性格」を決めた人に対する「ある種」の意思表示であり、メーカーに対する投資行為なのだと思う。
ボクスターには単にパワフルだとか、限界性能が高いだとか、あるいはスポーツカールックだとか、そういう次元ではない本物の「スポーツカー」だけが持つ楽しさに満ち溢れている。
「走りの喜びを何よりも優先している」ことをドライバーへ伝えるという「目的地」へ辿り着くための方法をすべてやり尽くしたかのようなドライブフィールは、まさに圧巻。
ボクスターSの魅力とは何だろう?
改めてそう問いかけてみると、まず頭に浮かぶのはオープンカーなのにボディがとてもしっかりしているという点だ。
剛性感が高いといえばいいのだろうか。
ボクスターをガレージから連れ出し、スタートして数十メートルも走ると、いつも感じることは、すべての基本であるボディが、とてもしっかりしているという点だ。
あたかも固い殻に覆われているような、オープンカーらしくない安心感は、他のオープンカーを所有したドライバーなら、走り出した瞬間に 感じ、そして車に慣れてきたとしても、常にフレッシュな感動として、所有している喜びを感じさせてくれる。
このボディー剛性というのはボクスターの場合、クーペのようなただ堅いというだけの感触ではなく、オープンボディーが構造的に持っている適度なゆるさと、基本構造が持つ剛性とのバランスが 「織り成す妙」の味付けだと言っていいだろう。
それでいて適度な軽快感も捨てていないという、違う部分のバランスともが絶妙な按配でドライビングへの味付として、ドライバーへ伝えてくれる。
渋滞のために歩くような速度でも、ステアリングを握る喜びを味わえるのは、実を言えばこうした部分の感触なのだ。
車に乗って走っている間、まるで強固な砦に守られたような安心感を受け続ける感覚というのは数値では決して表わせない部分だ。
これは幌を下ろした状態でも同じで、路面の凸凹が多い山手通りを通り抜けても、路面の状況をゴツゴツとした感触で伝えるが、ボディーの変形が少ないことをドライバーはそのステアリングを通して知ることになる。
これもドライビングの楽しさの一つとして感じさせてしまうところが、ポルシェならではの味付けだといってもいいだろう。
こうしたボディーのしっかり感は、パワーをかけたときの、蹴りの感覚と、ミッドシップならではの回頭性のバランスをさらに高い次元へ導いてくれる。
その加速を受け止めるだけのシャーシー性能が高いというのは、特にコーナーを抜ける際に顕著にわかる部分だ。
911は大きく重く、そして何よりも後ろに大きなマスを感じさせるうえ、ボクスターを上回る高性能の部分は非常に高い速度域での話で、通常のドライバーではそうした領域へ持ち込むことはまず不可能に近い 。
これは数値だけではなく、ドライバーに訴えかける感性を含めたもので、国産車の中には、この数値が欧米の車よりも高いことを謳っているにもかかわらず、運転してみると、にわかにはその数字が信じがたいものが多い。
だからこそ、車は試乗してみないとわからない。
私のボクスターSはオプションの電子制御ダンパー、PASMを装備しているうえにスポーツクロノを装着している。
だがノーマルモードでは、そうしてことをすべて忘れしまうほどの柔らかさで、4輪を適度にストロークさせながら、路面からの入浴をうまくいなしながら、無駄な動き だけを排除するという絶妙なサジ加減の乗り味を堪能させてくれるのだ。
他の車から乗り換えて真っ先に意識させられるのは、まずその素晴らしいブレーキだろう。
サイドからの唯一のボクスターとの相違点である「赤いブレーキ」は、ブレーキペダルを踏むたびに、そのリニアな効き具合によって、常に強大でありながらデリケートなコントロールが可能なストッピングパワーを従えていることを意識させてくれる。
車の運転好きな助手席の女性に、いつペダルに足を乗せ、いつ踏み始めたかを全く悟られることなく車を減速させることができる車というのは、片手で勘定できる数の車種に限られるのではないだろうか。
それも全神経を使う必要は全くないイージーさでもってだ。
もしあなたが隣の女性そのものに意識の半分を奪われていたとしても、全く変わることなく、いつブレーキペダルに足を乗せ、いつ踏み始めたかを、隣の女性に全く悟られることなくボクスターSを減速させることができるのだ。
だが、この能力が何故必要なのかは、言うまでもなくボクスターSが積む最高出力280psを発生する3.2リッターユニット があるからに他ならない。
パワーはもちろん吹け上がりの鋭さ、サウンドなど、すべての面でスポーツエンジンとして文句のつけようがない ことがわかるドライバーなら、このレベルまで数十年をかけて改良し続けたポルシェのエンジニアに尊敬の念を抱くはず。
今や280psなんて数値は国産のセダンでもザラに見ることができるが、水冷フラット6のパワーは、その密度がそれらのサムシングエルスとは全く違う。
ボクスターの2.7リッターも相当できがいいけれど、基本価格でのSとの差額の100万円の差は 歴然とあるのは、車を借りてのインプレッションでは分からない部分なのだろうか、ほとんどの車のジャーナリストが触れていない点だ。
アクセルを踏めば、前方から引き寄せられるかのような加速は、高質で上品な味付けと同時に、それでいて恐怖心一歩手前の領域までをミックスさせるという、女性の官能を揺さぶるかのような味付けがなされている。
これは責任を問われない領域での、ポルシェからのドライバーへのプレゼントなのかもしれない。
そしてブレーキを踏むことが悦楽であるという世界を見せることができるのは、まさにポルシェの独壇場といっていいだろう。
真綿で首を絞めるようにブレーキディスクを挟み込むことでしか、実現できないであろうと思われるような、まるで後ろから巨大な見えざる手で抱きかかえられるかのようなタッチで、乗員の対地速度を瞬時に下げてくれるのだ。
997の乗り心地を劇的に変化させた PASM は、ボクスターでも抜群の効果を発揮させている。
オプションの電子制御ダンパー、PASM、スポーツクロノというデバイスは、このSのエンジンユニットにコーナーで最高の仕事をさせるために存在するのだろう。
ポルシェのエンジニアは、そのレベルがどこまで到達できるのかを知り尽くしているため、オプションとしてこうしたアイテムを用意しているのかもしれない。
微舵領域での応答性は、ミッドシップのため 911よりも明らかにシャープだ。
二人乗りという身軽さに加え、エンジンをリアではなく、ミッドシップに搭載するため、この「回頭感 」は911では味わえないものとなっている。
ノーズがインを向くというよりも、自分を中心にしてノーズがインを向くと、タイムラグなしで、リアが回り込んでゆく。
この際立った素直さこそが、911にはない、ボクスターの真骨頂なのだと思う。
ステアリングを切った瞬間に反応するノーズは、ドライバーの意思がダイレクトに 直結しているかのような応答性で、駆け抜ける喜びのひとつのバロメーターとして、ドライバーの感性へさらにスパイスを振りかける という効果を発揮する。
そしてすべては絶大な安心感のもとで展開されるわけだが・・
私は過去にポルシェドライビングスクールへ3度連続で参加し、2回目には911クラスの優勝経験を持っている。
そのため、どのようなシーンでも、普通よりかなり速いペースを維持することができるのだが、そうしたペースであっても、危なっかしさなどは微塵も感じさせないの は、レースで鍛えられたポルシェのノウハウが、市販車にフィードバックされている証なのだろう。
そのため、コーナーでも、躊躇なくペースを上げることができるわけだ。
そのため、常にバックミラーに白いものが映っていないかをチェックしておく余裕を残しておくことも、ポルシェでは大事なポイントとなるわけだ。
こうしたデバイスは、サーキットでの限界走行だけにあるのではない。
もちろんそれも半分の理由ではあるだろう。
だが残りの半分は、快適性のために用意されているのだ。
この快適性は「二座のオープンエアスポーツカー」という選択肢のための舞台を演出するためのもので、それは購入前には想像できないものだった。
オープンエアドライビングをゆったり満喫しようという時も、乗り心地には何の不満も抱くことはない。
いや慣れてくると、むしろ19インチへインチアップしたくなるほどだ。
そして当然のごとく、曲がりの一体感、楽しさもポルシェブランドにふさわしい一級の味付けがなされている。
ステアリングからは、いかにもポルシェらしい精度の高さが伝わってくる。
走り出してすぐ、クルマに全幅の信頼をおけるのは、微舵はもちろんのことながら、舵を入れようと力を加えたその瞬間から、路面の状況をありありと掌に伝え てくるからだ。
そしてわずかな力加減にも、相応の Firm な手応えを返してくるのは、おそろしく精度の高い応答性によるものだ。
ステアリングを切り込めば、思った分だけがリニアに変化する。
それ以上でも以下でもなく、車体の向きが変わってゆくのだ。
自分の運転が、あたかもうまくなったような勘違いを与えてくれるかのような、その意思が、まるで生き物のように感じられるのは私だけなのだろうか?
巧みにセットアップされたサスペンションは、その軽快感を強調する一つの要素なのだと思う。
このような曲がりの一体感に加え、楽しさのグレードも一級品だ。
ステアリングは、いかにもポルシェらしい精度の高さを感じさせる部分で、車好きなら、走り出して数メートルもすれば、クルマに全幅の信頼をおける ようになるだろう。
微舵どころか舵を入れようと力を加え たその瞬間から、路面の状況をありありと掌に伝えてくる。
しっかりとしたステアリングフィールを通してのわずかな力加減の変化にも、しっかりとした手応えを返してくるそのフィーリングは、まさにスポーツカーならではなものだ。
さらに、恐ろしいまでの精度の高い応答性は比類のないものだ。
ステアリングを切り込めば、頭の中でイメージした分だけを、まさにジャストに、それ以上でもそれ以下でもなく、車体の向き を数センチの精度で変えていることをドライバーへ伝えてくれる。
その按配から、この車の味付けが無類の車好きによって、なされていることがわかるだろう。
ソフトトップはロックだけが手動で、あとは電動開閉式。
速度が50キロ以下ならボタンを押すだけで、走りながら開け閉めの動作をさせることができる。
銀座の交差点の中央を駆け抜けながら、周りの視線を釘付けにすることのできる能力がズバ抜けたものがあることを知れば、車に似合ったドライバーになろうとする努力をも、この車は後押ししてくれるのだ。
ロールバーの間を渡すウインドディフレクターを装着したこともあって、どのような速度域でも風の巻き込みは少ない。
フロントスクリーンの上端までがドライバーの頭から適度に遠いため、爽快感だけを存分に楽しむことができるのだ。
ベタ褒めも仕方がない。
宇宙と通じている天を見上げることができる状態で、風と太陽と戯れながらコーナーの連続を軽快に悦楽のフィールで走る抜けることができるオープンスポーツカーの理想の姿を体現した存在 こそがボクスターの魅力なのだから。